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DXと人を両立する経営へ。「最高のホームをつくろう」に込めた組織と戦略。
株式会社あいホーム
代表取締役社長 伊藤 謙
1984年、宮城県加美町生まれ。明治大学商学部を卒業後、山形県の住宅会社に入社し、営業職として住宅ビジネスの基礎を学ぶ。3年間の注文住宅営業を経て、さらなる成長のため徳島県の工務店に身を置き、経営をV字回復させた若手社長のもとで「カバン持ち」として経営の最前線を学ぶ。東日本大震災後の2011年4月、地元・宮城に戻り、あいホーム専務取締役に就任。2020年に代表取締役社長となり、住宅事業を軸に空き家再生や民泊事業などにも取り組みながら、事業の複線化と持続的に成長できる組織づくりを進めている。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
震災を機に家業へ。圧倒的需要に応えたDXの推進。
私が家業を継ぐと決めたのは21歳のときです。父から「従業員50人とその家族、合わせて150人を養っている」と聞き、自分の生活がその人たちに支えられていると実感しました。その瞬間、継ぐのは自分しかいないと腹を決めました。
その後、経営を学ぶために徳島の工務店で働いていましたが、東日本大震災を機に宮城へ戻り、あいホームに入社しました。被災直後は混乱が続きましたが、その後すぐに住宅需要が急増します。
当時、当社の施工能力は年間80棟ほどでしたが、200棟規模の受注が入る状況となり、「いつ建てられるか分からない」という状況でした。
そこで工程管理をデータ化して着工予定を可視化する仕組みづくりに取り組み、その結果、人員を増やさずに施工能力を210棟まで引き上げることができました。この経験を通じて、デジタルによって事業の前提を変えられるという手応えを得たことが、現在の経営の原点になっています。
効率化の先に見えた課題と「OMO」という考え方。

震災後、DXを進める中で、私は一度「デジタルに寄せすぎた」と感じたことがあります。当時は「とにかくデジタルを使おう」という意識が強く、社内のやり取りも効率を重視するようになっていました。
その結果、社内の雰囲気が大きく変わりました。直接相談しづらくなり、上司も部下の状況が見えにくくなった。実際、若手社員が短期間で辞めていく状況が続きました。これは明らかに自分の判断ミスだったと感じています。
そこで私は、一度真逆に舵を切る決断をしました。デジタルから離れ、「フィジカル」を重視する方針に切り替えたのです。社内でのランチ会や、直接顔を合わせる機会を意図的に増やしました。
その中でたどり着いたのが、「Online Merges with Offline(OMO)」という考え方です。リアルな体験を中心に据えながら、その周りをデジタルが支えている状態。どちらかではなく、両方が自然に融合していることが重要だと考えています。
「最高のホームをつくろう」共感を生み出す企業ブランディング。
ここ数年、私が最も力を入れているのが企業ブランディングです。きっかけはシンプルで、「自分たちは何のために存在しているのか」を、きちんと言語化できていなかったことに気づいたことでした。
そこで、社員全員で議論を重ねる中から生まれたのが、「最高のホームをつくろう」という理念です。この「ホーム」は単なる住宅ではありません。家族や仲間との関係性、そして地域そのものまで含めた概念です。
この考え方に振り切ってから、事業の見え方が変わりました。例えば塩釜で取り組んでいる空き家再生や民泊事業も、単なる収益事業ではありません。象徴的な建物をつくることで、これまで届かなかった層に認知が広がり、新築の相談にもつながっています。
また、マーケティングの考え方も変わりました。広告で広げるのではなく、「共感で広がる状態」をつくる。その結果として、紹介や口コミが自然に増えていく。この流れを意図的に設計するようになりました。
ブランドは後から整えるものではなく、事業と同時に育てていくものです。理念に共感してもらえるかどうか。それが最終的に選ばれる理由になると考えています。
「熱狂」を力に変える。個性が輝く組織と採用。

ブランディングを進める中で、もう一つ大きく変えたのが組織のあり方です。理念を掲げるだけでは意味がなく、それを体現できる人材と環境がなければ、事業は機能しません。
私が重視しているのは、「何に熱狂しているか」です。仕事ができるかどうか以上に、その人がどんなことに本気で向き合っているかを見ています。
釣りでもサウナでも猫でもいい。強い興味やこだわりを持っている人は、その分野において自然と発信力を持ちますし、それが結果としてお客さまとの接点にもつながっていきます。また、そうした個性を活かすために、組織のつくり方も見直しました。
均質な組織をつくるのではなく、あえて個性の強いメンバーを集めた「クリエイティ部」を設け、会社全体の発想や取り組みを引き上げる役割を担わせています。組織の中に「変化を起こす存在」を意図的につくることで、事業の進化を促しています。
採用についても同様です。私はすべての一次面接に関わり、「誰と一緒にやるか」を最も重視しています。スキルは後からでも補えますが、価値観や熱量は簡単には変わりません。だからこそ、目の前の人がこの組織でどう輝くかを見極めることに時間をかけています。
結局、その人がどれだけ熱狂しているかが、仕事にもそのまま出ると思っています。その熱狂が集まったときに、初めてブランドや事業が本当の意味で動き出すと感じています。
隠れたニーズの開拓と、5年で1000億円という目標。
今、私が取り組んでいるのは「まだ表に出ていないニーズ」にどう応えるかということです。住宅業界はどうしてもファミリー向けが中心になりがちですが、実際には単身世帯が増え続けています。そうした背景を踏まえ、700万円台で建てられる一人暮らし向けの平屋など、新しい商品を開発しています。
また、猫と暮らすための賃貸住宅なども手がけています。これも特別なことではなく、「本当に求めている人がいるか」を起点に考えた結果です。既存の枠に合わせるのではなく、ニーズに合わせて形をつくっていく。その積み重ねが事業に広がりを生むと考えています。
そして、今掲げている目標は「5年で売上1000億円」です。現在は50億円規模ですが、単純に積み上げるのではなく、M&Aも活用しながら成長させていく。具体的には、20億円規模の企業を複数取り込み、それぞれを伸ばしていくことで実現できると見ています。
対象としているのは、東北から日本海側のエリアです。後継者がいない企業も多く、地域に根ざした会社がそのまま力を発揮できていないケースもあります。そうした企業と一緒に成長していくことが、自社の拡大だけでなく、地域全体の活性化にもつながると考えています。
こうした成長を実現していくためには、それを支える人材や組織づくりも欠かせないテーマだと感じています。
東北・日本海側を、世界中から人が集まる「最高の場所」へ。

私が描いているのは、単に住宅事業を伸ばすことではありません。その先にあるのは、「人が集まる場所をつくること」です。人口が減っているから難しいのではなく、魅力があれば人は外から来る。そう考えています。
イメージしているのは、フランスのブルゴーニュのような地域です。人口数百人の村でも、ワインという価値を軸に世界中から人が訪れる。東北や日本海側にも、本来それだけのポテンシャルがあるはずです。
そのためには、建築だけでは足りません。飲食や空間デザイン、体験そのものまで含めて、その土地の価値をどう引き出すかを考えていく必要があります。住宅もその一部であり、まち全体の魅力とどうつながるかが重要です。
これまでの意思決定は、「どこで戦うか」を決めるためのものでした。これからは、「どうすれば選ばれ続けるか」を設計していくフェーズに入っていきます。外から人が集まり、外貨を稼げる地域をつくる。その実現に向けて、事業の枠を超えて取り組んでいきます。